革財布にはずっとこだわりがあった。
サイズ、素材、そして使い勝手。
あらゆる店舗やネットショップ、SNSを見て回る。
自分にとって至高の財布を見つけるために。
こだわり始めたキッカケは渋谷のHERZ(ヘルツ)というレザー小物専門店。
初めてお店を訪れたときの感動は忘れられない。
足を踏み入れた瞬間に鼻を抜ける、本革の芳しい匂い。
店内に所狭しと並べられた、美しい鞄、財布、革小物。
僕は財布・名刺入れ・ショルダーバッグなど、HERZの製品を長く愛用していた時期がある。
革製品の中でも、特に財布が好きだ。
最も使う頻度が高いというのもあるが、財布特有のギミックがたまらない。
小銭入れやお札のつくりによって、使い勝手は雲泥の差が出る。
2mm幅を広げるだけで、劇的にお会計の動作が良くなったりもする。
財布のディテールに込められた、職人の想いを肌で感じる。
いろんなポケットがある財布の場合、「どこに何を入れよう?」と悩むのも楽しい。
自分の頭で考えて、その財布を最大限使いやすくする。
もはや趣味、いやライフワークといったら過言だろうか。
それほどまでに革財布が好きだった自分が、それを手放すという決断をした。
正直、自分でも驚いている。
なぜ革財布を手放す決意ができたのか?
そこに至るまでの過程を綴ってみたいと思う。
「長財布第一主義」だった、あの頃
最終的に革財布を手放すに至るまでの過程として、まずは自分がどんな財布遍歴をたどってきたのか書いておきたい。
最初に本革の財布を手にしたのは、大学生のころ。
当時付き合っていた人が、本革の長財布をプレゼントしてくれた。
正直なところ、そのころは本革の良さもわかっておらず、ただただ「かっこいい財布だな」ぐらいにしか思ってなかった。
僕が学生のころは、まだまだキャッシュレスなんて言葉もないような時代。
だから、どこで会計するときも現金。
つまり、財布が必須アイテムでもあった。
当時は、長財布からお札を取り出す所作が好きだった。
そして、カードも小銭もお札も大量に入れられる抜群の収納力。
パンパンに膨れた長財布に憧れていた。
使いもしないポイントカードや、おしゃれなレストランや居酒屋でショップカードをもらって、意図的に膨らませていたぐらいだ。
社会人になって自分でお金を稼ぐようになってから、ちょっと背伸びをしてルイ・ヴィトンの長財布を使ったりもした。
しかし、少しずつキャシュレス時代が色濃くなるにつれて、価値観も変わってくる。
長財布は憧れの対象から「こんな大きい財布、無駄かも?」という疑念の対象に変わっていった。
コンパクト財布に魅了される
本革長財布の、いかにも物質的な感じには今でも惹かれるものがある。
しかし、それだけで所有する理由にはならない。
物の良さというのは、機能美や無駄を削ぎ落としたミニマルさが宿ることで、初めて成立すると思うからだ。
キャッシュレスが普及してきたことで財布を使う機会が減った。
それにともなって、今度はコンパクト財布に目が移ることになる。
初めてちゃんとした革のコンパクト財布を手にしたのは、イルビゾンテだった。
そこから、有名ブランドのコンパクト財布を使ったり、とにかくあらゆるメーカーの財布を試しまくった。
あらゆる形状やギミックのコンパクト財布を使ってきたが、絶対に揺るがなかったのは「素材が本革」の財布を選ぶことだ。
なぜ本革の財布にこだわり続けたのか?
革の財布が好きな理由は、自分自身の満足感・充足感というのもある。
革の質感、匂い、見た目。すべてが素晴らしい。
そして、それと負けないくらい「他者の目」というのが大きかったと思う。
つまり、「良い財布を持っていると思われたい」という願望や見栄だ。
日常の買い物でスーパーやドラッグストアで財布を出す。
店員さんや他のお客さんから見られたとき、少しでもよく思われたい。
友達と飲み会に行った際のお会計で、センスのある財布を使ってると思われたい。
こんな願望だ。
しかし、この願望や見栄がいかに空虚で無意味なものか。
冷静に考えると、そもそも自分がスーパーに買い物に行った際、他のお客さんがどんな財布を持っているか意識することはまず皆無。
そして、友達と会食するときも、誰がどんな財布を持っているかなんて気にも留めたことがない。
つまり、「あの人、良い財布を持っている」と思われたい願望は、無意味に等しいのだ。
にもかかわらず、財布に執着している。
自分は見栄のために財布を持っていたのか。
その事実に気づいてから、革財布を持つことの価値が急速に薄れていった。
革財布を一生物にしたい願望は、ある素材との出会いで一変
もう一つ、僕が本革の財布を使っていたのは、良いモノを永く愛用したいという想いが強いからだ。
本革は、適切なお手入れをすれば半永久的に使える、いわゆる一生物。
そういうロマンみたいなのが好きで、本革の財布を使っていた。
見方を変えると、本革以外の素材で一生物の財布は実現しえないと思っていた。
しかし、とある素材に出会ったことで、僕の本革神話は崩壊する。
