これまで、歴史を動かす大きな要因として、紙の本は存在してきた。
しかし、いまや電子書籍やネットニュースの台頭によって、紙の本の人気が失われつつある。
本はどのように進化し、どのように人々に普及していったのだろうか。
本の歴史を語る上で欠かすことのできない存在。
それが「グーテンベルクと活版印刷」である。
まずはグーテンベルクとは?から始まり、活版印刷についてもわかりやすく解説していく。
紙の本の過去を知り、これからの本が在るべき姿、取るべき戦略について考えてみよう。
そもそも、グーテンベルクとは何者か?
本の歴史を語る上で、必ず名前が挙がるのが「グーテンベルク」という人物だ。
グーテンベルクこと、ヨハネス・ゲンスフライシュ・ツーア・ラディン・ツム・グーテンベルクはどのような人物で、どのような生涯を送ったのか。
実はハッキリしないところが多いのも事実である。
グーテンベルクはドイツの都市マインツに生を受けた。
誕生年は明らかになっていないが、1398年頃とされている。
彼は印刷の仕事をしながら、1440年代にドイツのマインツで活版印刷術を発明した。
活版印刷とは活版を使って印刷する技術のことをいう。
活版とは活字を並べて作られた版のことだ。
インクをつけて押すスタンプのようなものをイメージしてもらえるとわかりやすいだろうか。

活版印刷というと、グーテンベルクがたった1人で発明したという印象を抱く人も多いかと思う。
しかし、活字自体は11世紀の中国で畢昇(ひっしょう)によって発明された膠泥活字(こうでいかつじ)が最初とされており、木版印刷そのものはさらに以前から存在していた。
また、実際に財政的な投資をするパートナーや多くの職人の協力によって完成された発明といえる。
そのため、厳密には過去の発明などを上手く応用・活用してグーテンベルクが完成させたと考えるべきだろう。
グーテンベルクはこの活版を発明するために、様々な試みをした。
彼はもともと宝石職人として金属をカットしたり、鏡を販売していた。
こうした経験が活版印刷の発明に大きく役立ったことは間違いない。
またこれに加えて、ドイツ国内において金属産業がかなり発展していたという背景も、活字を鋳造する機運を高めていたと言えるだろう。
そしてグーテンベルクは活字をつくるために鉛や銅、錫(すず)など様々な金属を異なる比重で試し、ようやく金属活字を発明した。
また印刷に使うため、彼はランプからとった煤(すす)を原料にインクをつくった。
その後、多くの化合物を試して濃い黒のインクを発明したのである。
活字に必要な金属だけでなく、インクまでも必要なわけだから、この発明はかなりの労力がかかったと考えられるだろう。
聖書を多くの人に読んでもらいたい、それが発明の動機
グーテンベルクが活版印刷を発明した理由の1つに「聖書を多くの人に読んでもらいたい」という動機があったと言われている。
グーテンベルクはドイツの都市マインツで自分の名前を入れた42行聖書、いわゆる『グーテンベルク聖書』を印刷した。
この聖書はほとんどのページが42行で組まれていたことから、その名がついている。
『グーテンベルク聖書』は紙と羊皮紙によるものがあり、180部ほどが印刷されたと推定されている。
不完全なものを含めて現時点では49部の存在が確認されており、日本国内では慶応義塾大学に保存されている。
歴史の背景には必ず「情報を伝えるための媒介」が大きな存在感を示す。
その媒体がまさに紙の本であり、活版印刷は聖書を伝えるために作られた、そう考えてもいいだろう。
聖書の普及が宗教に与えた影響とは?
聖書が一般的に普及することで、信者と教会の関係性は大きく変化することになった。
本来、聖書(書物)は高価なもので、それは教会が所有するのが一般的であり、信者が自由に読むことはできないものだった。
活版印刷が普及して信者でも聖書が手に入るようになると、教会の権力は弱体化していく。
それによって現行の宗教を批判する人々が現れるようになり、プロテスタント信仰が広まっていくのである。
宗教改革を行ったルターは、ラテン語で刊行されていた聖書を地域の言語に翻訳することで改革運動の広まりを後押しした。
またルターは信仰義認説(信仰によってのみ人は救われるとする考え方)という主張を『キリスト者の自由』に著し、大量に印刷した。
これが帝国内に広まったのである。
こうした宗教の一般的な広がりは識字率の向上にもつながり、読み書きは西ヨーロッパの人々から広がっていく。
そこから時代は進んで、オーストラリアやアメリカのほとんどの人々が読み書きできるようになるのは1890年代のことだとされる。
一方、ルター派が多数を占めていたスウェーデンやフィンランドは18世紀までに高い識字率を達成していた。
このことからも、聖書の広まりが識字率の向上につながったと言えるだろう。
紙の本は歴史を動かすとともに、人々の知識レベルを高めることにも役立ってきたのだ。
活版印刷によって、科学革命や地図製作が進む
宗教だけでなく、本は科学の発展にも大きく貢献している。
印刷術の向上によって図形や解剖図、動物や植物の描写を正確に行えるようになった。
この結果、内容の充実した学術書を参照することができるようになり、研究者が過去の文献を研究に生かすことにつながった。
また、自分の研究結果を残したり、他の研究者との比較を行えるようになったことも大きな要因といえる。
印刷革命のまとめ
活版印刷が歴史に与えた影響は計り知れない。
当時、力を持っていた宗教について、聖書が普及したことで人それぞれが自分なりの宗教観を持てるようになった。
また、研究の成果を活字で残せるようになり、科学技術の発展を大きく加速させることになったことも大きな意味を持つ。
どんなに良い研究をし、良い伝承をしようとしても、それを後世に残すことができなければ意味がない。
そもそもの動機やヤル気にもつながらないからだ。
グーテンベルクと活版印刷について理解することは、本の歴史だけでなく人類の歴史まで考察することにつながる。
