電車や新聞で本の宣伝をするときの表現っていろいろありますが、広告でよく使われるフレーズの中に「重版出来!」という言葉があります。
だいぶ前になりますが、2016年4月放映のTBSドラマ「重版出来!」(原作:松田 奈緒子、出演:黒木華、オダギリジョーほか)が指しているのは、まさにこの言葉。
さて、この「重版出来」にはどんな意味があるのでしょうか?
読み方、そして意外と知られていない出版業界のウラ事情について解説します。
重版している本が本当に売れているとは限らない?
「重版出来」を素直に読んだら、「じゅうはんでき」です。ニュアンスとしては「重版するくらいの出来!」という感じでしょうか。
この「重版出来」、正しい読み方は「じゅうはんしゅったい」になります。
まず「重版」という言葉の意味ですが、これは印刷を何回もすることを指します。よく売れている本が売り切れてしまったときに、もう一度本を印刷することになるわけですが、これを「重版」というわけですね。
「出来(しゅったい)」は物事が出来上がることを指す日本語です。
その2つを組み合わせて「重版出来」となるわけです。
余談ですが、新刊を発売する時には最初から一定の部数を印刷します。その時、最初に印刷されたものを「初版」といいます。
出版業界では初版でだいたい5,000〜7,000部、よくても8,000部ぐらいです。売れそうな本は初版で1万部以上刷られることもあります(作品や出版社の規模によってはもっと少ない場合もあるし、多い場合もある)。
「初版」で印刷したものが全部売れてしまったら「重版」する必要があります。この時に打たれる広告が「重版出来!」なんですね。
重版する本はごく限られた作品だけです。なぜなら、売れない本が重版になることは基本的にないから。
そのため、「重版するくらい売れてるよ!」という意味を込めて、出版社は広告や宣伝のときに【重版出来!】という文言を載せることがあるわけです。
意外と知らない重版出来のカラクリとは?
一見するとこの「重版出来!」はすごく売れている本のように思えます。
もちろん、実際に売れているから重版をする場合もありますが、なかには”見せかけ”の重版出来があることは意外と知られていません。
じつは初版をあえて少なくして、重版に持っていくケースがあるからです。なぜこんなことをするかといえば、「重版出来!」と言うことで売れている本という印象を与えることができるからです。
重版ありきで初版を抑える。広告でよく見かける「重版出来!」という言葉にはこんなカラクリが隠されている場合もあります。
ただ、初版を少なくするということは、下手すると在庫が足らずに売り損ねる場合もあるので、非常に稀です。
たいていの本は、実売部数(実際に売れそうな冊数)を予測して、それに合う数だけ初版で刷ります。
「〇万部突破!」という宣伝文句にもカラクリが?
「10万部突破!」みたいな広告を見かけることもあるかと思いますが、あの数字にもカラクリがあります。
部数を表示するとき、基本的には刷り部数を指すことになっています。つまり、実際に売れた部数(実売部数)ではありません。
ですから、まだ売れていなくても印刷だけしてしまえば「〇万部突破!」という表記ができてしまうわけですね。
もちろん売れているからこそ重版をかけて部数を増やすわけですが、なかにはベストセラー倒産に追い込まれる出版社もあるくらいなので、売れている本だと100%断言はできません。
実務上はほとんど「重版出来(でき)」が使われる?
「重版出来」は「じゅうはんでき」ではなく「じゅうはんしゅったい」と読むんだよ、ということをお話してきました。
しかし、出版業界では実務上、「でき」と読むことが多い気がします。
少なくとも、僕が働いていた出版社では「しゅったい」と言っている人は誰もいませんでした(他の出版社の事情はわからないので、断言はできない)。
なぜ「出来(でき)」と読むのか?それは、そう読んだほうがラクだからでしょう。
そもそも「しゅったい」という読み方があまり浸透していない印象があります。
ですから「しゅったい」と正しく読んでも、相手に伝わらず「しゅったい…?」となってしまうことが考えられます。
知識としては「しゅったい」だけど、実際は「でき」と読まれることが多い「重版出来」のお話でした。