なぜ潰れる?出版社の「ベストセラー倒産」が起こる理由

ベストセラー倒産

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出版不況と言われて久しい今日このごろ。書店が次々と閉店に追い込まれる状況が続き、その不況の波は出版社にも押し寄せています。

そんな出版不況でも、定期的に「ベストセラー」と呼ばれる本が必ず登場します。

「ベストセラーがあれば出版社は安泰!」本が売れている状況ではそう考えてしまうのが人間の習性なのかもしれません。

しかし、実はベストセラーは一歩間違えると取り返しのつかない事態を引き起こす可能性を秘めていることは意外と知られていません。それが「ベストセラー倒産」と呼ばれるものです。

今回は出版社の「倒産」にスポットを当てて、「なぜベストセラー倒産は起きてしまうのか?」についてわかりやすく解説します。

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このブログを書いている人
あゆむ

英語学習者、書評家、文具好き。書店員→出版社→フリーランス10年目。TOEIC450→830。英検1級の勉強中。

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ベストセラー倒産が起きてしまう仕組みとは?

それではまずベストセラー倒産について見ていきましょう。

たとえば、ここに大きく売り上げを伸ばした本(作品)があるとします。想定内であれ想定外であれ、出版社にとって売れる本というのは「金の卵」です。

「これはチャンス!」とばかりに、出版社は売れる本の増刷を繰り返します(増刷とは、本を新しく印刷すること)。

「この本はベストセラーだ!出せば出すだけ売れるぞ!どんどん刷れ!」

ベストセラーですから、本を刷れば刷るだけ売れるので、当然の流れですね。

しかし、です。ここで安易に増刷を繰り返すと大きなしっぺ返しに遭うことがあります。それが「返品」という出版業界特有の仕組みです。

ベストセラーで本が売れたとはいえ、それがいつまでも続くとは限りません。

売れるからたくさん刷ったものの、ベストセラー本のブームが一気に去ると、その本は大量の在庫となってしまい、書店から返品されて返ってきてしまうのです。

すると、一体どうなってしまうでしょうか?刷った本は行き場を失い、ただの不良在庫となってしまいます。これがベストセラー倒産の仕組みです。

このあとさらにくわしく解説していきますが、本が書店から返品されてしまうと出版社は資金難に陥ってしまいます。

ノウハウのない中小の出版社がベストセラーの餌食になる

ベストセラー倒産が起きるのは主に中小の出版社と言われています。その理由は2つあります。

本を増刷しすぎて、余らせてしまう

ベストセラーを何度も出している出版社であれば過去のデータや経験値があるので「だいたいこれぐらい増刷すれば問題ないだろう」と予測を立てられます。

しかし、ベストセラーを出した経験がない出版社は、本が売れた時にどれくらいの部数を増刷すればいいかというノウハウがありません。

そのため、せっかくベストセラーを生み出したとしても、売れると思った部数の予想がハズレてしまい、大量の在庫を抱えるはめになってしまうのです。

広告を上手く打つことができない

2つ目は広告宣伝などについてのノウハウがないことに起因しています。

多くの出版社は自社の本をもっと売るために、広告を活用して販促をおこなうのが一般的です。出版社がおこなう広告宣伝はいろいろな形がありますが、中でも電車広告と新聞広告は今でも重要視されています。

メディア露出や広告掲載などのタイミングと増刷をうまく合わせることで、相乗効果を狙うのが上手な広告の打ち方なのです。

しかし、ベストセラー経験の少ない(あるいは初めての)出版社は、どのタイミングで広告を打って、どのタイミングで増刷をかければいいのかわかりません。ノウハウがありませんから。

さらにいえば、営業部の経験や知識が劣る場合には書店に十分な告知ができない可能性もあります。

「このタイミング広告を打てば、もっと実売を伸ばせる!」という予測を立てることができないのです。

タイミングはもちろんのこと、資金的な余裕がないので広告が打てないという単純な理由もあります。

このようにして、せっかくベストセラーを出したにもかかわらず、ブームが去ってしまうのです。するともっと売り伸ばせたはずのベストセラーが返品の山となって出版社を赤字へ追い込んでいきます。

”返品という罠”がベストセラー倒産を引き起こす

このようにしてベストセラー倒産は起こるのですが、この倒産の流れは出版業界特有のケースと言えます。その要因となっているのが、委託販売制度です。

委託販売制度をかんたんに言うと、書店で売れなかった本は、出版社(取次)に自由に返品できるという仕組みです。

一般的な小売業では、商品は仕入れた時点で仕入れた側(小売店)の在庫となります。買い取って自分のお店の在庫にするので、仕入れてしまえばメーカーに返品することはできません。

しかし、出版業界では委託販売制度(つまり「売れなかった本は自由に出版社に返していいよ」という制度)があるために、ベストセラー倒産という悲劇が起こるのです。

ベストセラー倒産の実例を挙げて恐怖を体感

ベストセラー倒産の仕組みについておわかりいただけたでしょうか。

それではここからは「ベストセラー倒産」についての実例を挙げて、その恐怖について触れてみることにしましょう。

【草思社】累計100万部のヒットがあっても倒産する恐怖

まず、ベストセラー倒産の事例としてよく知られているのが「草思社」という出版社です。草思社は主に人文科学に関する本を出版する出版社です。

有名な本としては『間違いだらけのクルマ選び』シリーズや、『声に出して読みたい日本語』などがあります。また、ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』を刊行している出版社としても有名。草思社の刊行するジャレド・ダイアモンドの著作は累計100万部を超える大ヒットとなっています。

こんな草思社でも一度、ベストセラー倒産の憂き目にあっています(草思社は2008年に民事再生法の適用を申請し、現在は文芸社の完全子会社)。

【ゴマブックス】爆発的なヒットを生み出すも、後が続かず倒産

他にベストセラー倒産したと言われている出版社にゴマブックスがあります。
ゴマブックスは主にビジネス本や自己啓発本、タレント本などを刊行する出版社でした。

ゴマブックスの倒産のポイントとなるのが『赤い糸』という小説です。

『赤い糸』は2006年にケータイ小説として登場し、2007年にゴマブックスが文庫化します。それが大きなヒット作となり、テレビドラマや映画、漫画、ゲームになるなど大反響を呼びます。

しかし、この『赤い糸』以降、ヒット作が続かず、やがて資金繰りが悪化。2009年9月に民事再生法の適用を申請します。

ベストセラー倒産が起きないようにする秘策はある?

ここまでベストセラー倒産について実例を挙げて説明してきました。

このような悲劇をこれ以上生み出さないためにはいったいどうすればいいのでしょう。

出版業界の構造にも問題がありますが、何よりベストセラーが出ても出版社として冷静でいることが一番といえます。

ヒット作を生み出した編集者や営業部員がイケイケになってしまう気持ちはよくわかります。しかし、ベストセラーを無鉄砲に追いかけることは非常にリスクがあります。

せっかく生み出したベストセラーの餌食になって倒産してしまっては元も子もないのです。

ですから、出版社は日々、ノウハウの蓄積を行う事が不可欠です。

  • ・どのくらいの部数の本が売れたら、増刷を行うのか?
  • ・増刷は何部にするのか?
  • ・広告はどのタイミングで打つのか?
  • ・電車広告なのか、新聞広告なのか?

こうしたノウハウを常日頃からストックとしていく事によって倒産を防ぐことは可能です。さらには、ベストセラーを世の中に広めることで、本の販売伸長にもつながるでしょう。