僕は以前、大学時代に2年間、社会人になって2年間、計4年間ほど書店員として働いていました。
どちらも東京都内の本屋でして、小型書店(約50坪)・大型書店(1000坪超)ともに経験があります。
大学時代に本屋アルバイトの経験があったとはいえ、大型書店は規模がちがうし、レジや棚の陳列はまったくの別物。最初はわからないことの連続でかなり苦労しました。でも、続けていると良いことはあるものです。
いまはこうして本屋の外から記事を書いていますが、チャンスがあればまた書店員として働きたいと思っています。
今回は、振り返ってみて感じる「書店員の仕事の楽しいところ」を記してみます。
なぜ書店員の仕事は楽しいのか?
これまでの経歴のなかで書店員の仕事がダントツに楽しかったわけですが「なぜ楽しいのか?」を冷静に考えたことはありませんでした。
書店員をしていて楽しいと思う理由は、大きく分けて3つあります。
- ① 本に触れることができる
- ② 棚づくりを通して自己表現ができる
- ③ 共通の話題や夢を持つ仕事仲間がいる
1.本に触れることができる
まず1つ目の理由は「本にさわれる喜び」があります。
これはもう理屈云々ではなく「本に触るのが好き」「本を見るだけでワクワクする」という感覚です。本能的な衝動に近いのかもしれません。
書店員はレジ接客のときだけでなく、売り場でもずっと本を触っています。ですから、本が触ることが好きな人にとってこれほど至福の空間はありません。
たとえば、みすず書房のハードカバーを触る瞬間。個人的にみすず書房の本が放つ雰囲気が大好きでして、デザインも良く、硬質で分厚い本を触っているだけで、多幸感を得ることができます。
あとは、いかにも書店員らしい身のこなしをしている自分に酔えるのも良いですね。入荷してきた本を10冊くらいまとめて片手に持ちながら売り場を歩くのも好きでした。片手に持つというのは、厳密にいえば10冊を上に積み重ねて腕全体と胸で支えながら持つということです。「あー自分、書店員やってるなー」と悦に入る感じ。個人的にはこの身のこなしが、最も書店員っぽい動作だと思っています。
「一度にこんなたくさん本を持てるんだぞー」という自己陶酔にも陥っていましたが、こういう自己満足できる瞬間って仕事に必要ですよね。
あとは、レジでブックカバーをかける時間も好きでした。いかに上手く綺麗に手早くカバーをかけるかを意識して、所作にも気を使っていました。書店ごとに「本のソデ」をカバーに入れるかどうかでルールがあったりしますが、両方のソデを入れるのが僕のこだわりでした。
2.棚づくりを通して自己表現ができる
本を出版するというのは、出版社や著者の自己表現です。何かを伝えたいから本を出す。これは言うまでもありません。
書店員は、出版社から受け取った本を使って自己表現をすることができます。それが「棚づくり」です。
入荷してきた本を、自分が思うように並べる。これは書店員として1番楽しい仕事です。
- 「新刊が入ってきたから、関連性の高い本をココに置いてみよう」
- 「思い切って既刊をメインに持ってきてみるか!」
- 「売り場が寂しいからPOPをつくろう」
などなど、自分の感性や経験を頼りに棚をつくる作業は最高に幸せなひとときです。
反対にいえば、こうした売り場づくりができない(させてもらえない)書店員の仕事は面白くありません。たとえば学生アルバイトを雇って、レジ専門でぶっ通し5時間とかやらせる本屋がありますが、アレは絶対に良くない(僕も経験があります)。
経営上 or シフト上の判断で仕方ないのかもしれませんが、必ずマイナスにしか作用しません。確実に心がやられます。
前に働いていた本屋での話ですが、その日は人手が足りず、店長の指令で8時間連続(!)でレジに入りっぱなしの人がいました。業務後に本人に話を聞きましたが「気が狂いそうだった」とのこと。そりゃそうだ。
3.本という、共通の話題や夢を持つ仕事仲間がいる
仕事は”何をやるか”だけでなく、”誰とやるか”も重要です。何をやるかは大切なのですが、そこに「誰と」が伴っていないとなかなか続きません。
そして仕事をしているときの幸福感も「誰と」が充実していないと味わえないものです。
他の小売りのアルバイト(たとえばコンビニ)に比べると、本屋は似ている人(同じ趣味を持つ人)が集まりやすい場所です。
僕が働いていた本屋にも、良くも悪くも変な人が多くて楽しかったことを覚えています。特に嬉しいのは「本屋談義」ができること。
「売り場をこうしたら売り上げが伸びた」だの「この間できた新店はダメだ」だの、話していて楽しい話題で持ち切りです。これは書店員をしていて楽しいことの1つでした。共通の話題が話せる人がいるので、仕事中もワイワイできます(私語には注意)。
書店員をやりたい!けど、そんなに甘くはない現実
僕の書店員時代は、とても恵まれていたと思います。同僚は良い人ばかりだったし、仕事終わりに飲みに行ったりもしました。
さらに、好きに仕事(発注・陳列・返品)をさせてくれる上司がいました。
だから、結局は環境次第だと思います。書店員の仕事が押しなべて楽しいかといえば、決してそんなことはないわけです。結局、お店の方針と職場環境に左右されます。
本屋の仕事は世間的にツライものだと思われている気がしますが、部分的には正しいです。給料が安いのは言うまでもなく、何より体力を使います。肩とか腰を痛めることありますし。
書店員について話すときは毎回同じ結論になってしまうのですが、やはり本が好きじゃないと続かないというのは厳然たる事実だと思います。
本屋の経営者や店長が労働環境を変えるしかない
とはいえ、本屋を運営する側(経営者や店長など)ができることは確実にあります。それは「書店員の仕事を楽しいと思わせる環境づくり」です。
先ほど述べたような「レジぶっ通しで8時間」なんかやらされたら、誰だってイヤになります。こうした拘束をさせられるのは夕方から働く学生アルバイトに多いのですが、これは今スグ改善すべきです。
書店員の仕事が楽しいと思ってもらうためには、将来有望な学生に悪いイメージばかりを植え付けてはいけません。
だから、たとえば1時間のうち、ほんの5分だけでも売り場に出られるようにすべきです。これだけでも十分な気分転換になります。
たとえば店長と学生バイトの2人体制の小型書店の場合、基本は学生バイトにレジをやらせてもいいですが、店長は配慮して「僕(私)がレジに入ってるから、店内をまわって少し棚の整理をしてもらえる?」といった声がけをするとか。これがあるだけでも、学生バイトの身としてはかなり救われます。
さらにいうと、日常的に店内の整理などをやっておくと、どこにどの本があるか把握できるので、お客さんから在庫を聞かれたときにスムーズに対応できます。
これは私見ですが、本屋アルバイトを希望するのは「本を並べたい」と思っている人が大半です。しかし、仕事をしてみたらレジばっかり。こんな状態では夢を壊すだけです。
書店員の仕事は楽しいと思ってもらえる労働環境・職場環境をつくること。それが本屋の永続性につながる1つのカギになるでしょう。人が集まらなければ、商売は続きませんから。