僕は過去にうつ病で休職した経験があるのですが、うつ病って知らない間に心が蝕まれているんですよね。気づいたときには、ヤバい状態になっていることが多い。
いまうつ病に苦しんでいる人はもちろんだけど、忙しい仕事に就いている人や「自分はメンタルが弱め」と自認している人は、予防措置的な意味として本書『うつ病九段』を読んでおくといいかもしれません。
『うつ病九段』ってどんな本?
「ふざけんな、ふざけんな、みんないい思いをしやがって」
藤井フィーバーに沸く将棋界で、突然、羽生世代の有名棋士の休場が発表されました。
様々な憶測が流れましたが、その人、先崎九段は「うつ病」と闘っていたのです。孤独の苦しみ、将棋が指せなくなるという恐怖、そして復帰への焦り……。
体験した者でなければなかなか理解されにくいこの病について、エッセイの名手でもある先崎さんが、発症から回復までを細やかに、淡々と綴ります。心揺さぶられること、必至!
Amazonより引用
『うつ病九段』はこんな人におすすめ
- ▫ 仕事や日常生活がつらい
- ▫ うつ・メンタルがしんどい
- ▫ 棋士、将棋界に興味がある
うつ病に支配された心
電車に乗るのが怖いのではなく、ホームに立つのが怖かったのだ。なにせ毎日何十回も電車に飛び込むイメージが頭の中を駆け巡っているのである。
本書P16より
心が正常な人にはなかなか理解しがたいと思いますが、うつ病やメンタルが病んでくると、「生きてても意味ない」とか「まわりには必要とされてない」といった感じで、とにかくひたすら自分のことを責める時間が続きます。
そして、それはやがて「希死念慮」(いわゆる自殺願望)につながっていくのです。
本書では、その希死念慮について「心の中でどんな感情が巻き起こっていたか」というのが克明に書かれています。その最たる例が、上記で引用した内容です。
あまりにも暗い話になるので避けたい話題ではありますが、こうした心情が起こることを知っておけば、少しは客観的に物事を考えられるかもしれません。
入院生活のリアル
ただただ横になり、食べ、薬を飲み、眠るだけの日々だった。いや眠ることさえできず二時間おきに目が覚めていた。朝三時以降は追加の睡眠薬がもらえず、そのまま朝まで地獄のなかでじっとしているよりない。
本書P32より
著者はうつ病にかかったときすぐに入院することになりました。そこでの入院生活がこれまた克明に描かれています。
著者の兄が精神科医の先生ということもあり、対応は早かったようです。
精神科病棟で入院していたらしいのですが、意外なことに他の入院患者さんとも交流があるみたいです。ふつうに会話したり、一緒にパズルを解いたり。
うつ病で入院する人は(機会や決断する勇気が出ないという意味で)なかなか少ない気もしますが、ひとつの選択肢として本書は参考になるはず。
ただ、個人的に思ったのは、著者はまわりの人に恵まれていたということ。そもそも、身内が精神科医ですぐに相談できるという人は稀でしょうし、すぐに兄が入院の手配をしてくれたというのもレアケースだと思います。
「こんな恵まれた環境で治療できるなんて。自分には全然参考にならない」という、うがった見方をすることもできるかもしれません。
ちなみに、僕は通院のみで入院経験はありません。なかなか良い病院が見つからず、3〜4箇所くらい通ってようやく優しくて良い先生が見つかりました。
1回目の通院時は認知療法?のようなやり方でくわしい診断をして、2回目以降は軽い面談+薬の処方+傷病手当金の申請書をもらう感じが続きました。
眠れないという地獄
うつ病の不眠の辛さは凄まじいものがある。健康な時ならば本を読んだり、うとうとしてやり過ごせるだろう。だがうつの時は、まず軽く眠るということができない。頭の中に靄がかかっているくせに、悪いことだけ考えられるのだ。
本書P48より
うつ病と不眠は切っても切り離せません。マジで眠れなくなるので、朝方まで地獄のような時間が続きます。
著者も書いてますが、とにかく悪いことばかり考えてしまうんです。希死念慮で「どう死ぬか?」を考えるのは当然として、将来の不安や孤独感などでひたすら苦しい時間が続きます。
解決策としては、朝まで眠らずにがんばって起きて、朝日を浴びてセロトニンが分泌されるようにすること。太陽を浴びてセロトニンが増えると、それが原料となって夜になって眠くなる物質(メラトニン)に変化します。つまり、セロトニンが増えれば、夜は自然と眠くなるということです。
散歩がうつ病を治す?
「医者や薬は助けてくれるだけなんだ。自分自身がうつ病を治すんだ。風の音や花の香り、色、そういった大自然こそうつを治す力で、一歩一歩それらのエネルギーを取り込むんだ!」
本書P63より
上記は著者の兄(精神科医)の言葉です。
散歩はマジで賛成で、僕もうつ病になって休職してからは、近所をひたすら散歩してました。
当時はタバコを吸っていたのですが、近所のセブンイレブンの喫煙所でタバコを吸う時間がひそかな楽しみでした。
何でも良いと思うのですが、自分なりの小さな楽しみを見つけることで、前向きに散歩ができるようになるはず。
とはいえ、うつ病にかかった当初は部屋にこもりきりで「外に出るなんで絶対無理」という状態なこともあるので、無理はせずに少しずつがいいと思います。
うつ病を癒やす“言葉”
今にして思うと、うつ病が治るに当って、大事だったのは、重大なエピソードではなく、親しい人間にかけられたなにげないことば、ほんとにちいさなエピソードのひとつひとつだった。
本書P118より
これも完全に同意でして、うつ病のときはまわりの人からの言葉に癒やされることが多々ありました。
たとえば僕の場合、うつ病で休職したことを両親に話すとき。最初は怒られたり、嫌なことを言われるだろうなと思っていました。
でも、意外なことに両親は「無理しないで、仕事は辞めたほうがいいんじゃない?まだ若いんだし、なんとかなるよ」と声を掛けてくれたことで、すごく助けられたんですよね。
あと、勤め先の社長に掛けてもらった「もちろん今は辛いけれど、あとになってみれば、きっと小さなことに感じられるから大丈夫だよ」という言葉にもすごく心が救われました。
うつ病になると、孤独感が極めて強くなるのですが「周りの人に頼ってもいいだな」と思えるだけでも症状が少し和らぐ気がします。