本をたくさん売るためには、さまざまな販促方法を組み合わせる必要がある。
書店では、本の陳列方法を工夫したり、手書きのPOPを作成したりして読者の目を引く。
出版社も新聞広告、雑誌広告、SNS、Web広告など、時代に合わせた宣伝方法を取り入れてきた。
特に近年では、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSを活用した情報発信も重要になっている。
しかし、出版業界には昔から多くの読者へ一気に情報を届ける強力な広告媒体が存在する。
それが「電車広告」である。
電車広告は、通勤や通学で毎日多くの人が利用する空間に広告を掲出できる。
そのため、本のタイトルや著者名を幅広い層へ認知させる手段として、現在でも多くの出版社が活用している。
今回は、電車広告の種類や費用、そして出版業界で電車広告が重視されてきた理由について、僕(出版社の元社員)の経験を交えながら解説する。
電車広告にはどのような種類があるのか
「電車広告」と聞くと、中吊り広告を思い浮かべる人が多いかもしれない。
しかし、実際には電車内外にはさまざまな広告媒体が存在する。
代表的なものを挙げると、以下のような種類がある。
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中吊りポスター
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まど上ポスター
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ドア横ポスター
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ステッカー広告
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デジタルサイネージ
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つり革広告
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女性専用車両広告
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広告貸切電車(ADトレイン)
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車体広告(ラッピング広告)
それぞれ特徴が異なり、広告主は目的や予算に応じて使い分けている。
中吊りポスター

中吊りポスターは、車内の通路上部に吊り下げられる広告である。
電車広告の代表的な存在であり、週刊誌、映画、イベント、書籍など幅広いジャンルで利用されている。
乗客の目線に入りやすく、短期間で多くの人へ情報を届けられる点が特徴である。
山手線の中吊り広告の場合、1週間単位で数百万円規模の費用が必要になる。
代表的な商品では、B3サイズのポスターを多数掲出するプランで、約200万円前後から設定されている。
短期間で多くの乗客へ認知を広げたい場合に適した広告である。
まど上ポスター

まど上ポスターは、網棚の上に掲出される広告である。
座席に座っている乗客からも見えやすく、乗車時間中に繰り返し目に入る可能性がある。
新商品やサービスの認知広告などで利用されることが多い。
ドア横ポスター

ドア横ポスターは、座席の端にある壁面へ掲出される広告である。
電車内広告の中でも、出版社が重視してきた媒体のひとつである。
理由は、乗客との距離が近く、表紙デザインやタイトルを印象づけやすいためである。
本の場合、表紙そのものが広告になるため、視認性の高いドア横ポスターとの相性が良い。
ドア横ポスターは、中吊りよりも掲出面積や枚数によって料金差が大きい。
首都圏全線規模で展開する大型プランでは、数千万円規模になるケースもある。
一方で、特定路線や期間を限定すれば、数百万円程度から実施できる商品も存在する。
ステッカー広告

https://shunkosha.co.jp/post-26580
ステッカー広告は、ドアや窓付近に貼られる小型広告である。
大きなポスターほど目立たないものの、乗り降りの際に自然と視界へ入りやすいという特徴がある。
デジタルサイネージ

https://shunkosha.co.jp/shanaidg-433
デジタルサイネージは、車内の液晶画面で流れる映像広告である。
静止画だけでなく動画や音声を活用できるため、紙媒体にはない表現が可能である。
近年では、多くの路線で導入が進んでいる。
車内液晶画面を利用した広告は、期間や放映路線によって料金が変わる。
複数路線を長期間利用する大型プランでは、数千万円規模になることもある。
映像制作費も必要になるため、紙媒体より総予算が大きくなる場合もある。
広告貸切電車(ADトレイン)

https://shunkosha.co.jp/kashikiri-041
広告貸切電車は、車内広告を一つの企業や作品で統一する広告手法である。
中吊り、ドア横、まど上、デジタルサイネージなどを一体的に展開できるため、高いインパクトを生み出せる。
広告貸切電車は、車内全体をジャックするため高額になる。
大型キャンペーンでは数千万円規模になることも珍しくない。
ただし、その分だけ乗客への強い印象付けが可能である。
※電車広告の料金は鉄道会社や広告代理店によって異なり、定期的に改定される。上記はあくまで現在の一般的な料金水準の目安。
本の広告は、なぜドア横ポスターが重視されるのか
電車広告にはさまざまな種類があるが、出版業界では昔からドア横ポスターが重要な広告媒体として扱われてきた。
もちろん、「この広告が必ず一番売れる」という明確なデータがあるわけではない。
広告効果は、本の内容、著者の知名度、発売時期、書店での展開、SNSでの反響など、さまざまな要素によって決まるためである。
そのうえで、出版社がドア横ポスターを好む理由はいくつかある。
ひとつは、本との相性が良いことである。
本の広告では、タイトルや著者名だけでなく、表紙のデザインそのものが重要になる。
ドア横ポスターは乗客との距離が近く、表紙を大きく見せられる。
そのため、書店で本を手に取る前の段階で読者の記憶に残りやすい。
また、電車内では乗客が一定時間その場に留まるため、広告を見る時間を確保しやすいという特徴もある。
一瞬で通り過ぎる屋外広告とは違い、通勤や通学の時間に何度も目に入ることで、本の存在を認識してもらいやすくなるのである。
本の販促では短期間で認知を広げることが重要である
出版業界では、新刊発売直後の動きが非常に重要である。
もちろん、本の中には何年にもわたって売れ続けるロングセラーも存在する。
しかし、多くの新刊は発売直後の数週間から数か月間でどれだけ読者へ届くかが、その後の売れ行きを左右する。
いわゆる「初速」が良ければ、取次(日販やトーハン)も力を入れてくれるからだ。
そのため出版社は、発売時期に合わせてさまざまな販促を展開する。
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書店で大きく展開する。
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新聞広告を出す。
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SNSで情報を発信する。
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著者のイベントを開催する。
そして、そのひとつとして電車広告を活用するのである。
電車広告の強みは、多くの人へ短期間で繰り返し情報を届けられる点だ。
特にビジネス書や自己啓発書、話題性の高い新刊などでは、発売後の勢いを作るために広告展開が行われることが多い。
電車広告は書店営業のネタとして使える
電車広告の役割は、読者へ直接アピールすることだけではない。
出版社の営業担当にとっても、大きな意味を持つ。
例えば営業担当が書店へ訪問する際、
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「来月から山手線で広告を展開します」
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「首都圏で大型広告を予定しています」
という情報は、書店へ本を提案する材料になる。
広告展開が決まっている本は、出版社が力を入れている商品であることが伝わりやすい。
その結果、書店での展開場所や注文数に影響する場合もある。
もちろん、電車広告を出せば必ずベストセラーになるわけではない。
しかし、出版社、書店、読者をつなぐきっかけとして、電車広告は大きな役割を果たしてきたのである。
電車広告を活用する出版社は強い
出版業界では、販促戦略に力を入れている出版社ほど広告の使い方が上手い。
その代表例として挙げられることが多いのが、サンマーク出版である。
サンマーク出版は、単に新刊を宣伝するだけではなく、シリーズ作品や関連書籍を組み合わせて展開するなど、既刊本にも動きを作る販促を行ってきた。
新刊広告をきっかけに、過去の作品まで再び売れることがある。
これは出版社にとって非常に大きなメリットである。
ただし、電車広告は決して安い販促手段ではない。
大きな広告費を投入できる出版社ほど有利になる面はあるが、最終的に重要なのは広告だけではない。
本そのものの魅力、書店での展開、口コミ、SNSでの広がりなど、複数の要素が組み合わさってヒットは生まれる。
電車広告は今でも出版業界に残る重要な販促手段である
現在はSNSやWeb広告によって、本の売り方は大きく変化した。
以前のように電車広告だけで本を売る時代ではない。
しかし、多くの人が利用する公共交通機関に広告を掲出し、短期間で大量の人へ認知を広げられる電車広告の価値は、今でも失われていない。
特に、本はタイトルや表紙の印象が購入のきっかけになる商品である。
だからこそ、読者の日常の中に自然と入り込める電車広告は、出版業界にとって現在でも有効な販促手段なのである。
本を売るために必要なのは、良い本を作ることだけではない。
その本を必要としている読者へ、適切なタイミングで届ける仕組みを作ることも、出版社の重要な仕事なのである。

